かぐや 昔、昔、あるところに、おさんとおさんが住んでいました。 お爺さんは、毎日、竹の林に行って、竹を切って、かごやざるを作っていました。二人は、それを売って生活していました。 ある日、お爺さんは、いつものように竹の林の中に入っていきました。すると、何かがぴかぴか光っています。「おや、どうして光っているんだろう。」お爺さんは、そのそばに行きました。そこには、下の方がぴかぴか 光っている竹がありました。 「中に何があるんだろう。」とお爺さんは考えて、その竹を切ってみました。 すると……。中に小さな女の子が座っていました。 「おお、かわいい女の子だ!」 お爺さんは、その女の子を家に連れて帰りました。お婆さんも、たいへん喜びました。二人には、子供がいなかったからです。お爺さんは「今日からこの子は私たちの子だ。かぐや姫と呼ぼう」と言いました。かぐや姫と いうのは、ぴかぴか光る女の子という意味です。お爺さんとお婆さんは、かぐや姫を大切に育てました。 かぐや姫が来てから、不思議なことが起きました。お爺さんが竹を切ると、竹の中から、たくさんのお金が出てくるのです。それで、お爺さんは、たいへんお金持ちになりました。大きい家も建てました。 「お爺さん、かぐや姫は本当にかわいいですね。この子がいると、毎日楽しいですね」と、お婆さんがよく言っていました。 「そうだな、お婆さん。疲れたときも、この子を見ると、元気になるね。」と、お爺さんがたいてい応答しました。 かぐや姫が来てから、お爺さんもお婆さんも、とても幸せです。かぐや姫は、どんどん大きくなって、美しい女の人になりました。たいへん美しいので、かぐや姫のことを知らないひとはほとんどいませんでした。の若い 男の人たちが、かぐや姫に会いに来ました。家の周りにはたくさんの人がいて、いつもにぎやかでした。 「かぐや姫を私にください。結婚したいのです」と、大勢の若者がお爺さんとお婆さんに頼みました。でもかぐや姫は、だれにも会おうとしませんでした。それでも、毎日会いに来る五人の若者がいました。五人の若者は 、お爺さんとお婆さんに言いました。「かぐや姫に会いたいです。」「私も。」「私も。」「かぐや姫と結婚したいです。」「私も。」「私も。」 お爺さんとお婆さんは、困っていました。かぐや姫は、だれとも結婚したくありませんでした。そこで、お爺さんとお婆さんに言いました。「では、その若者たちに会いましょう。呼んできてください。」 五人の若者が呼ばれてきました。かぐや姫は言いました。「私の欲しいものを取ってきて下さい。取ってくれることができたら、その人と結婚します。」 一人目に「あなたは『仏様が使った茶碗』を取ってきて下さい。」、 二人目に「あなたは『のなる木』」、 三人目に「あなたは『えないの』」、 四人目に「あなたは『の持っている玉』」、 そして五人目に「あなたは『のにある貝』」と言いました。 だれも見たことがない物ばかりです。五人の若者は、みんな困りました。でも、なんとか、かぐや姫の欲しい物を持ってきて、姫と結婚したいと思いました。 それから三年ちました。 一人の若者が「真珠のなる木」を持ってきました。それは、ぴかぴか光ってとてもきれいでした。若者は、かぐや姫に言いました。「これは、私が遠い外国で見つけたものです。とても大変でした。さあ、私と結婚してく ださい。」 かぐや姫が困っていると、知らない男たちが来て、あの若者に言いました。「この木は、私たちが作った物です。三年もかかりました。とても大変でした。でも、まだお金をもらっていません。早くお金を払って下さい。 」 若者が「真珠のなる木」を見つけたというのは、だったのです。嘘がわかってしまったので、若者はずかしくなって、げて帰りました。 他の四人の若者もみんな、かぐや姫の欲しい物を持ってくることができませんでした。 美しいかぐや姫のことは、天皇の耳にも入りました。天皇は、かぐや姫に会いたいと思いました。 〈続く〉 天皇は、国で一番がある人ですから、どんなことも思ったりにできます。天皇が欲しいと思えば、それは天皇の物になるのです。 天皇はに「かぐや姫を連れてこい」と言いました。家来はかぐや姫の家へ行って、姫を連れていこうとしました。でも、かぐや姫は、「私は行きたくありません」と言って、行こうとしません。そのも家来は何度も来まし た。そして、姫を連れていこうとしましたが、かぐや姫はどうしても「はい」と言いません。 「それでは、私が会いに行こう」天皇はかぐや姫の家に来ました。 ― 本当に美しい。こんなに美しい人は見たことがない ― かぐや姫に会うと、天皇は思いました。そして、言いました。 「かぐや姫、、私と結婚してください」 「それはできません。あなたと一緒に行くことはできません」かぐや姫は静かに答えました。 それでも、天皇は、「さあ、一緒に行こう」と、かぐや姫を連れていこうとしました。すると、不思議なことが起きました。かぐや姫の体が見えなくなってしまったのです。天皇はびっくりして言いました。「かぐや姫、 かぐや姫、どこですか。どうしたんですか。もう、連れていかないから、美しい顔をもう一度、見せてください。」 天皇がこう言うと、かぐや姫は、また見えるようになりました。 天皇は、かぐや姫を連れて帰ることができませんでした。でも、かぐや姫の美しさを忘れることができません。それから、かぐや姫に何度も手紙を書きました。かぐや姫も、時々手紙を書きました。 こうして、また三年経ちました。春になりました。かぐや姫は、毎晩、月を見て寂しそうにしていました。そして、夏になりました。かぐや姫は、毎晩、月を見て泣くことが多くなりました。お爺さんとお婆さんが心配し て、「どうしてそんなに泣くのですか」と聞いても、「何でもありません」と答えるだけです。 八月になりました。もうすぐです。十五夜の晩に月は丸くなります。 十五夜の前の日、かぐや姫は、朝からずっと泣いていました。夜になって月が出ました。かぐや姫は、お爺さんとお婆さんに「私はこの世界の人ではありません。月から来たのです。明日、月に帰らなければなりません。 十五夜の日に帰ることが、月の人たちとのですから」と言いました。 お爺さんとお婆さんは、とてもびっくりしました。「えっ!月から来た?」二人はしばらく何も言えませんでした。そして、寂しそうに言いました。 「姫はこの世界の人ではなかったのですね。でも、かぐや姫は私たちの大切な娘です。姫がいなくなったら、私たちは生きていけません。行かないで下さい。」 「私もお別れしたくありません。それで、月を見て泣いていました。でも、私の力ではどうすることもできないのです」とかぐや姫は泣きました。 お爺さんは、このことをすぐ天皇に知らせました。天皇は、二千人の強い家来たちを呼んで、「かぐや姫の家に行け。そして、月の人たちが来ても、してかぐや姫を渡すな」と言いました。 十五夜の日が来ました。二千人の強い家来たちがかぐや姫の家に来ました。お爺さんは、かぐや姫を部屋に入れて、をしっかり閉めました。鍵もかけて、自分は戸の前に立ちました。お婆さんは、部屋の中でかぐや姫の手 をしっかりっていました。だれにも姫を渡さないつもりです。 夜になりました。月が丸く大きく光っています。その光がどんどん大きくなって、家のりが急に昼よりも明るくなりました。その光の中から何かがゆっくりと下りてきました。 雲です。雲には、月の世界の人たちが乗っていました。空を飛ぶ美しい車も庭に下りてきました。雲も月の人たちも車も、みんな光っています。それを見た天皇の家来たちは、急に力がなくなって、立っていることができ なくなりました。 一人の女の人が雲から降りて、大きな声で言いました。「今日が約束の日です。かぐや姫を月へ連れて帰ります。」すると、どうしたのでしょう。「パタン」「パタン」「パタン」部屋の戸が全部開いてしまいました。 かぐや姫はゆっくりと立ち上がりました。だれもかぐや姫を止めることはできません。お婆さんはただ泣いていました。かぐや姫は静かに部屋の外に出て行きました。お爺さんとお婆さんに「長い間、お世話になりました 。ありがとうございました。これからは、月を見て私を思い出してください」と、泣きながら、しそうに言いました。 それから、天皇に手紙を書きました。「残念ですが、私は月へ帰らなければなりません。どうぞいつまでもお元気でいてください。」そして、手紙と月の人が持ってきた「の薬」をお爺さんに渡しました。「これを天皇に 渡してください。この薬を飲むと、死なないでいつまでも生きることができます。」 そのとき、月の人が、月から持ってきた美しい着物をかぐや姫に着せました。すると、かぐや姫は、もう今までのことを全部忘れて、月の世界の人になってしまいました。お爺さんとお婆さんのことも、楽しかったことや しかったことも、何も覚えていません。 かぐや姫は空を飛ぶ車に乗ると、月の人たちと一緒に月へ帰っていきました。 天皇は、かぐや姫が月に帰ってしまったと聞いて悲しく思いました。かぐや姫の手紙を読むと、もっと悲しくなりました。手紙と一緒にもらった不死の薬を見ながら言いました。「もうかぐや姫はいないのだから、長く生 きてもしかたがない。この不死の薬は、私には必要がない物だ。」 天皇は家来を呼びました。「この薬を日本で一番高い山へ持って行け。そして、いてしまえ。」 家来は、日本で一番高い山の上で、不死の薬を焼きました。そのは、かぐや姫のいる月まで、高く高くっていきました。 この話を聞いた人たちは、それから、この山を「不死の山」と呼ぶようになりました。それが、だんだん、「ふじのやま」と言うようになって、今の「」になったのです。