点的人間関係と線的人間関係点的人間関係と線的人間関係点的人間関係と線的人間関係点的人間関係と線的人間関係 欧米人は、日本人のように、「この間はどうも……」(Thank you for the last time.)という 挨拶をしない。それが欧米社会の通念である。この社会通念を、ここではタテマエと呼ぶことに する。 欧米的タテマエと日本的タテマエは、正反対である。 それぞれのタテマエは、それぞれの社会でうまく機能している。しかし、現代のような国際 化時代になってくると、違ったタテマエをもつ人同士の交流も盛んになり、しばしば彼らの間で 文化的衝突がおこっている。何がタテマエなのか、タテマエを支えている価値観は何か、タテマ エを破ると何がおこるかなどについて、相互に認識を深めることが、この衝突をすくなくする近 道であろう。 さて、欧米人に向かって、日本人が英語で、“Thank you for last time.”と言ったとしよう。 彼らは、どんな心理的反応をおこすだろうか。 日本人のことをよく知っている人々は、「この間はどうも……」を英語に直訳しているなあ、 そんな無理なことはやめた方がいいのに、と日本人に同情的であるだろう。 しかし、大多数の人々は、まず、last time とはいつのことか、何のことを話題にしているの か、と不審に思うだろう。せっかく感謝をしているのに、何に対して感謝しているのか肝心の情 報が欠けているからである。 欧米人が謝意を述べるのはその場限りということは前にも述べたが、例外もある。相手から 最大級の恩恵を受けた場合には、次に会ったときに、あらためて感謝の意を述べることはあり得 る。しかし、この場合も、たとえば、“Thank you for bringing me the heavy books last week.” (先週は、重い本をはこんでくださって、ありがとうございました)のように、〟何に対する感 謝か″〟「この間」とはいつのことか〝を、はっきりことばで表現する。したがって、ただ漠然 と「この間はどうも……」と言われると、当惑してしまうのである。 また、よほどのことでもない限り、過去に受けた恩恵に対しては再度謝意を述べないのが原 則であるから、この原則を破ると、〟あの人は感情高い〝だと思われる。 〟人にしてやった親切・人から受けた親切をいちいち家計簿につけて、収支決算を合わせて ようとしている〝 〟私はあなたから受けた親切をよくおぼえていて、こんなに感謝しているのですから、あな たも私から受けた親切を思い出して、足りない部分は補ってくださいよ〝 と、一種の心理的ゆすりにかけられたような気にさせられる。日本人の立場からみるととん でもない誤解、彼らの心理的反応は、そうなのである。 欧米人として、人から受けた親切を、そう簡単に忘れるものではない。ただ、感謝の気持を ことばであらわすのは一回限りで、時間がたてば黙ってすます、という習慣ができあがっている。 感謝の述べ方をめぐるタテマエの違いは、質的なものではなく、一回二回かという程度の差 とみなすこともできよう。これは、欧米人の点的人間関係と、日本人の線的人間関係の違いに起 因しているのかもしれない。